意外と知らない手持ち花火の世界~国産玩具花火製造所に学ぶ花火の文化と庭の関わり~
夏の風物詩、花火。
夏の夜は手持ち花火で遊ばれる方も多いのではないでしょうか。
今回は自宅のお庭で花火を楽しむ方法について、国内で玩具花火の製造をされている筒井時正玩具花火製造所にインタビューさせて頂きました!
取材に応じて頂いたのは、筒井時正玩具花火製造所3代目の筒井良太さん。
「お庭と手持ち花火の関わり」や「お庭で花火をする際の注意点」をお聞きしました!
また、筒井さんは“花火を楽しめる古民家宿”も経営されていることから、宿でのお庭の役割についても教えて頂きました。
筒井良太
筒井時正玩具花火製造所 3代目
花火歴30年、花火は人を楽しませるもの。自分自身も花火スタッフも楽しみながら仕事することを大切にしています。夏真っ盛りの繁忙期に息抜きで1日スタッフと海で遊ぶことが夏の楽しみ!
森彩香(聞き手)
株式会社タカショー プロユース企画部 販売促進課 所属
SNS・WEBマガジンの運用担当
手持ち花火は冬の時期でも遊ぶほど大好き
森:今日はお庭で花火を楽しむ方法や、庭と花火の関係性について色々教えて下さい!
筒井:わかりました!よろしくお願いします!
目次
実はお庭と深い関係がある手持ち花火の歴史
森:まず最初に手持ち花火の歴史について教えて下さい!
筒井:手持ち花火の中でも線香花火は400年近くの歴史があります。花火に使われている火薬は、鉄砲の伝来とともに日本に入ってきました。戦が終わり、平和になった江戸時代初期から火薬が玩具花火として使用されるようになり、日本で広まり始めたと言われています。
江戸時代の浮世絵にもあるのですが、昔は花火を香炉に立て、縁側で鑑賞して楽しんでいました。その姿が線香そのものに見えたため、「線香花火」と呼ばれるようになったと言われています。
森:江戸時代からお庭で遊ばれていたのは驚きです!花火の種類はどのように増えていったのですか?
筒井:昔は「和火(わび)」という黒色火薬や松炭といった炭を原料とした花火しかありませんでした。焚き火をした時に出るようなオレンジ色の火花を出す花火ですね。
明治時代からは、色を出したり、強い光を放つ酸化剤が輸入され、カラフルな花火が登場し始めました。「洋火(ようび)」という種類の花火です。また、金属も輸入されるようになったことでキラキラとした花火を製造できるようになりました。
最近では花火はセット売りされていることがほとんどですが、今から30~40年前は駄菓子屋さんで花火がばら売りされていたんですよ。駄菓子屋さんでお菓子を買う感覚で、自分の好きな花火を一本一本買っていました。
森:花火がばら売りされているのは見たことがないです!
筒井:私たちはそのばら売り販売を店舗やイベント出店で再現しています。子ども達に花火を選んでもらうところから楽しんでもらっているのですが、そうすることでどの花火がどんな火花を出すのかがわかるようになるんですよ。
森:私はいつもセットで販売されている花火を楽しんでいますが、どんな火花が出るかまでは意識したことがなかったです。花火を一本一本選んで買うところから花火をする楽しさがあるんですね。どうしてばら売りはなくなってしまったのでしょうか?
筒井:駄菓子屋さんが少なくなってきたことや、花火をする場所が限られてきたことが大きいと思います。花火をする=火遊びをするという風に捉えられるので、公園や砂浜でもできる場所は限られてきています。
森:確かに最近は公共のスペースでやってはいけない禁止項目が増えてきていますよね。これは私たちの業界で言えることなのですが、最近は住宅自体がコンパクトになっていたり、隣の家との距離が近かったりするので、自宅で花火をする機会もなくなってきているなと感じます。
自宅のお庭に花火ができるスペースがあれば、花火文化を継承していけるかもしれませんね。
お庭で花火をするときに準備するもの
森:自宅のお庭で花火をする時に、必要な道具や注意点を教えて頂きたいです。
筒井:まずは、子どもだけで花火をしないように、必ず大人と一緒に遊んでくださいね。
準備するものですが「水を張ったバケツ」「ロウソク」「ライター」は予め準備しておいてください。
よくライターで直接花火に火を付けられる方もいますが、付き始めは勢いよく燃焼するので、火傷に繋がりやすく危ないです。手持ち花火の点火にマッチやライターは使用しないで下さいね。
森:ロウソクに火をつけても、風ですぐに消えてしまうんですよね・・・。私はめんどくさがって直接ライターから花火に火を付けてしまうことが多かったので気を付けます。
筒井:そんな時は、フルーツ缶詰などの空き缶にロウソクを立てるのがおすすめですよ。高さがあるので風よけにもなりますし、地面を汚さずに使えます。
他にも、旅館の食事で一人用のお鍋が用意される時があるじゃないですか?あの鍋を煮る時に使われている青い固形燃料を使用するのもおすすめです。火力が安定していて、着火もしやすいです。
森:なるほど!空き缶や固形燃料で試してみます!
お庭で花火をするのに最適な床材は?
森:最近のお庭は床材のバリエーションも豊富で、タイルや芝生・ウッドデッキなどが人気です。花火をするのに最適な床材ってあるのでしょうか?床材別に気を付けることも教えていただきたいです!
筒井:花火をするなら土や砂利の上が一番良いと思います。燃え広がることがないので安心です。
芝生やコンクリート・タイルも地面から離してすれば問題ないですが、花火の火力が強かったり、地面と花火の距離が近いと焦げてしまいます。
気になる方は「防炎シート」を敷いてその上で花火をするのもいいと思います。焚火台などの下に敷くシートですね。地面の汚れを気にせずに使えます。
筒井:防炎シートも直に花火を近づけると焦げてしまいますので、そこは注意して下さいね。
森:防炎シートは使わないときに収納できるのでいいですね!
筒井:人工芝生や人工木ウッドデッキなどはプラスチックの素材でできているので、花火をすると焦げてしまい危険です。その上では花火はしないで下さいね。
花火の温度は1000℃~1500℃にもなりますので、人に向けないのはもちろん、地面や植物にも近づけすぎないように気を付けて下さい。
古民家宿の経営から学んだお庭の重要性
森:筒井時正玩具花火製造所では花火の製造だけでなく「花火ができる古民家宿」の経営もされているとお聞きしました。古民家宿での庭の役割について感じておられることがあれば教えて頂きたいです。
筒井:古民家宿のコンセプトは「原風景を残す宿」です。
昔懐かしい縁側で花火を楽しみ、それぞれの心の原風景にも立ち返っていただきたいと、アメニティとして線香花火をつけています。
筒井:昔の住まいには人が集う「縁側」とそこから繋がる「中庭」がありました。
「夏の夜に縁側に出て線香花火で遊ぶ」という風景は、日本人のDNAに刷り込まれているのではないかと思うんです。そのように過ごしたことがなくても、何故か懐かしいと思ったり、風情を感じるんですよね。
また、家にいて何もすることがない時に自然と集まる場所が縁側。みんながここに集い、外の景色をみながらコミュニケーションを取る。家族や親戚、友達との距離をよりグッと引き寄せる役割や、家にいながらも思い出としてずっと記憶に残りやすい場所でもあると思っています。
森:確かに、古民家に住んだことはないですが、どこか懐かしいという感覚があります。筒井さんご自身は、昔にそのような暮らしをご経験されたことはありますか?
筒井:ありましたね。庭先にブランコがあったり、そこで祖父母が集まっていた風景を思い出します。やはりその時もお庭で手持ち花火をしていましたね。この暮らしの風景も伝承していければと思います。
森:タカショーは暮らしの中でも「お庭で過ごす時間」を特に大切にしています。それが昔でいう縁側にあたると思うのですが、自然を感じながら家族や友人と過ごしてもらうことで、コミュニケーションが生まれたり、五感を刺激して健康寿命を伸ばそうといった考えを一番大事にしているので、やはり原点である縁側の良さは伝えていきたいなと思っています。
筒井:「家にいながら自然や四季を感じる」というのは大事ですよね。
森:実際に宿に泊まられた方を見られていて感じることはありますか?
筒井:今はインバウンドで宿泊者の7割くらいは外国人です。日本人は昔、縁側で花火をしていたことを伝えると驚かれる方が多いです。縁側でそよ風を感じながら、ゆっくりと過ごす時間を楽しまれて下さっています。「風情がある」という言葉を理解して帰られていきますね(笑)
残りの3割は、都会に住まれている日本人の方です。静かにのんびり過ごしたいという方が泊まりに来られたり、小さい頃に花火で遊んだ経験がない方もいらっしゃったりします。有難いことにリピーターのお客様もいらっしゃいますね。
花火職人おすすめの手持ち花火
森:筒井時正玩具花火製造所の花火はどんな特長があるのですか?
筒井:日本で販売されている花火のほとんどは実は海外製の花火なんですが、国産の線香花火を製造しているのが私達を含め3社だけなんです。職人の手で一本一本作っているので、海外製の花火に比べて火花が大きく、長持ちするのが特長の一つです。
森:ほとんど海外製というのは驚きです・・・!とても希少な存在ですね。筒井さんが思う線香花火の良さを教えて下さい。
筒井:線香花火はどのように火花がでるかわからないので、職人が「こういう風に火花がでるかな」と思って作っても裏切られるところが面白いですよね。
線香花火は自然の摂理なので、どう出るかがわからないというのが職人魂に火をつけます(笑)
みなさんも経験されたことがあると思いますが、誰が一番長く線香花火をもたせられるかを競争して、大人も子どもも無我夢中で楽しめるのが線香花火の魅力的なところです。
普通の花火は燃焼ですが、線香花火は燃焼した後に不思議な「現象」が起こります。これが起きるのは線香花火だけなんですよね。線香花火一本一本に一つの命が宿っているように思えます。その一本と深く向き合いながらやると貴重な体験をしているように思える、奥深い花火だと思います。
また、線香花火にも四季があると言われていて、火をつけてから4つの変化が楽しめるのですが、その変化は自然現象なんですよね。それぞれ表情が変わっていく様が春夏秋冬に例えられています。
筒井:火をつけて最初の火玉ができるところを「春の蕾」、火花の出始めが「夏の牡丹」、勢いを増した優美な火を「秋の松葉」、最後の散っていく様を「冬の散り菊」というように、燃え方の段階ごとに名前が付けられています。
線香花火の四季も日本人の心をぐっと魅了して、親しむ人が多いんだと思います。
気象条件によって咲き方も変わりますし、特に風があたると火花がより大きくなり、目まぐるしく変わっていく様子が楽しめます。それがなぜか線香花火の飽きないところですね。
森:大人になっても線香花火はしたくなりますもんね。四季って深い・・・!他におすすめの手持ち花火はありますか?
筒井:おすすめの花火でいうと、私は火の粉をたてる「和火(わび)」の花火が大好きなので、「九州炭火」という商品がおすすめです。おもちゃ花火コンテストでも優勝したことのある花火です。
どこか懐かしく、焚き火を見ているようなほっとした気持ちにさせてくれます。素朴ですが「こんな花火みたことない!」とリピートしてくれる方が多いです。
取材をしてわかった花火をする“場所”の必要性
筒井:先ほどもお話をしましたが、花火をする場所がなくなってきていることから、毎年大勢の人で花火をする「はなびあそび」というイベントを企画しています。
工場の敷地内には花火を楽しめる芝生のスペースがあるので、多くのご家族がご参加くださります。
毎回このイベントでは子ども達のはしゃぎ声や笑顔が溢れ、私たちスタッフも癒しの時間になっています。
特にイベントのフィナーレを飾る「プチミュージック花火大会」は、会場にいるお子さんのお父さんが主役になり、音楽に乗ってノリノリで手持ち花火をリレーしていきます。
子ども達はその姿を見て大喜びしています(笑)家族の絆や思い出を深めるイベントになっていると感じますね。そういった体験をしていれば自然と次の世代に繋がっていくんだなと感じています。
森:幼少期の花火の体験が、文化の継承に繋がるんですね。花火をする場所の必要性がわかりました。
お家づくりをする時に、「四季を感じる場所を作る」「夏は花火ができるスペースをつくる」といったことを念頭に置いておくと素敵な住まいができそうです。
予め花火ができる土や砂利のスペースを計画したり、防炎シートなどで花火をできる場所を確保するのもいいかもしれませんね。私も家づくりをする機会があれば、小さくても花火ができるスペースを作りたいなと思いました!
庭を作った先にある風景や時間の良さも伝えていけるように、タカショーもより頑張っていきたいと思います。
今日は貴重なお話をありがとうございました!
筒井:ありがとうございました!
最後までお読みいただきありがとうございました!
今年の夏の夜は、ワンランク上の筒井時正玩具花火製造所さんの国内産花火で大切な人と思い出を作ってみて下さいね。
>>筒井時正玩具花火製造所 ホームページ